一枚一枚が渾身の手描き塗り 世界に一つだけの漆・蒔絵時計
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浄法寺漆について

『NHKプロジェクトX 挑戦者たち~壁を崩せ 不屈の闘志 金閣再建』より「浄法寺漆」金閣は、極限まで磨き上げられた漆黒の漆で覆われた。--ため息が出るほどの美しである。-- 漆黒の金閣を見た一人の僧侶が思わず言った。「このまま金箔を貼らないほうが芸術的な価値は高いんじゃないか」『NHKプロジェクトX 挑戦者たち~壁を崩せ 不屈の闘志 金閣再建』より 「眠っていた極上の漆」金箔は決まった。次は漆の番である。五倍箔は厚さが五倍だけに、当然、重さも五倍になる。強い粘着力を持つ特別な漆が必要だった。矢口は、良質だと評判の漆を世界中からかき集めた。中国、台湾……。 矢口はそれぞれの漆を木に塗り、100時間放置してみた。乾いてからの強度を調べるためだった。さらに雨にもさらした。金閣は池の横に建つため、湿気に強いことも求められるのだ。まず脱落したのが、中国産と台湾産。乾いてから金箔を貼りつけると、あっという間に剥落した。そのほかに集めた漆も全て、雨にさらすと粘着力が落ちてしまうことが判明した。矢口は、頭を抱えた。数日後のことだった。矢口のもとに、知り合いの塗り師からある漆が届けられた。漆の名は「浄法寺漆」。実験を始めた矢口の顔色が変わった。すさまじい粘着力だった。一度塗ると、10円玉でこすっても剥がれない。乾くまでに非常に時間がかかるが、いったん乾けば、たとえ雨にさらされようが、日に日にその強度を増していった。矢口はつぶやいた。「この漆はいったい何なのだ」すぐに矢口は、この漆の産地、岩手県の山中に向かった。そこには一人の男が待っていた。 漆掻き名人の岩舘正二、六十一歳。十四歳のときから山に入り四十年を超え、「漆の鬼」と呼ばれていた。矢口が到着したとき、岩舘はまさに漆掻きの真っ最中だった。挨拶もそこそこに、矢口は岩舘の研ぎ澄まされた技を見せてもらった。深く傷つけると木を殺してしまう漆掻き。岩舘は、愛用のナイフを用いて、寸分の狂いなく深さ五ミリの傷をつけて漆を採った。驚く矢口に、岩舘は誇らしげに語った。「一ミリでも深く掻いてしまうと、その年は多く漆が採れても、翌年は、その木から採れる漆の量も質もダメになったしまう。逆に一ミリでも浅いと、量が採れないだけでなく、粘度も十分でなくなってしまう。だからちょうど五ミリなんだ」そう言うと再び木に向かい、当たり前のように五ミリの深さで掻いていく。すると、あの驚異の粘度を誇る浄法寺漆が、木の肌に沿って流れ落ちてくる。
作業が終わると、矢口はおそるおそる話を切り出した。「金閣の修復に必要なのは、一・二トンの漆です。それだけの量を確保できるのでしょうか」岩舘は、矢口の話を腕組みしたまま聞いた。浄法寺漆の年間の生産量は二・二トンにすぎない。その半分以上を、金閣修復のために一度に納めることになる。矢口は、金閣修復のためにどれだけ浄法寺漆が必要かを懸命に訴えた。じっと耳を傾けていた岩舘は、矢口の話が終わるとぼそっと言った。「こっちさ来い」矢口が岩舘のあとについていくと、漆の倉庫があった。促されて中を見た矢口は、思わず驚きの声を上げた。そこに、浄法寺漆が入った樽が山積みになって置かれていたのである。岩舘が淡々と理由を語った。「最近は、国内産の漆は、安い外国産の漆に押されて全然ダメなんだ。昨年などは、国内で使われた漆の99パーセントとは外国産で、国内産はわずか1パーセント。俺らがどんなに頑張って浄法寺漆を掻き取っても、ほとんどが売れ残って、こうやって倉庫に眠っているんだ。だから、金閣の話を聞いたときは、やっとこの漆を日の当たる場所に出せると思って、本当に嬉しかった。必要な分、全部持っていってくれ。漆にとっても、こんなところで寝ているよりそのほうが幸せだ」そう言うと岩舘は、浄法寺漆が塗られた面(塗り面)をいくつか見せてくれた。どれも、じつに滑らかで肌理の細かな仕上がりだった。「浄法寺漆で金閣をよみがえらせてくれ」そういうと岩舘は、矢口に握手を求めてきた、その手を取ると、矢口は深々と頭を下げた。五倍箔に浄法寺漆。最高の素材が揃った瞬間だった。『NHKプロジェクトX 挑戦者たち~壁を崩せ 不屈の闘志 金閣再建』より
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